善意が伝わらないとき



こんにちは、

ドクターかよです。



私は外来をするとき

目の前の人に

ベストを尽くすことを

心がけています。



私のできることを

すべてやり切ったのですが、

こちらの誠意が

相手に届かなかった。



今日はそんなお話です。





外来に

男性が来院されました。

(特定されないよう

配慮しています。)


職場から

「病院に行きなさい。」

と言われ、受診したようです。



診察室には

帽子を目深にかぶり、

サングラスやマスクをして

現れました。



その方は

「自分の顔が気になる。」

と、言われるのです。



「顔が変だから

人と交流できない。

仕事では

現場に出れず、

トイレに閉じこもってしまう。

休みの日は鏡の前で過ごし、

外に出られない。」


と、社会生活に

支障が出ていました。




「ぜんぜん変じゃないですよ。」

と言っても

「そんなことはない。

先生は僕に気を遣っているだけ。」

と、否定されます。




診察を進め、

『醜形恐怖症』

と診断しました。



醜形恐怖症とは、

他人には認識できないか

できても些細な、知覚された

外見の欠陥または欠点に

とらわれている状態です。



外見上の心配から

鏡による確認、過剰な身繕いなどの

繰り返し行動も見られます。



薬物治療などで

スッキリよくなることは

難しい印象です。



「自分の顔は

変じゃないかもしれない。」

くらいになればいいなと

薬物調整と

精神療法を行いました。




結果、

「最初に来たとき

自分の顔が気になるのを

10段階中10だとすると、

今は8くらい。」

と言われるようになりました。



「少し下がって良かった、

もう少し下がればいいな。」

と治療を続けていると、

ある日の診察日に

彼の職場の上司が

突然やって来ました。





上司の方は怒っていて

「彼が仕事中トイレにこもって

働かない。

本当はいますぐ辞めてもらいたい。

それがダメなら休職してほしい。

こちらも困っている。」

と訴えます。



上司の方は

彼が他の従業員と

接せれないことで

安全管理などの問題が出ていると

言います。



彼に話を聞くと

「確かに

トイレにこもることはあった。

でも、

これからは気を付ける。

休職したくない。」

と言います。




私は上司に

「現在薬物調整中で

症状も少しずつではありますが

改善しています。

本人も休職したくないと言うので

もう1度だけチャンスを

もらえませんか?」

と、話しました。



「本当ならすぐにでも

休職してほしいけれど、

先生がそこまで言うのなら…」

と、首の皮1枚繋がりました。



その後も

上司は2週に1度やってきて、

「あそこができてない。」

「フォローするこちらは大変。」

と訴えます。


私はそのたびに

彼が休職しないよう、

辞めさせられることのないよう

守っていました。



そんな外来が

約4か月続いていました。





治療を続け、

彼は顔が気になるのは

10段階中4まで下がり、

外出もできるように

なりました。



職場では

トイレにこもることは

少なくなったものの、

ミスの多さや

言われた通りにできないなど

違う問題が

生じていました。



上司からは

相変わらず

厳しい意見が出ています。




心理検査も行い、

彼に合う

環境や配慮などを

これから職場に伝えていく

方針にしました。



しかし、彼は

「もう薬は飲みたくありません。」

と言うのです。





「もう薬は飲みたくありません。

病院にも来たくありません。」


と、彼は言います。


確かに

精神科病院は

喜んで行きたい場所ではありません。



でも、

・内服することで

症状が抑えられている。

やめると再燃する。


・今は仕事を

続けられるか辞めるかの

瀬戸際であり、

もう少し内服を継続してほしい。


・生活が落ち着いたときに

やめるか考えましょう。


と説明しましたが、

彼は聞く耳を持ちません。



結局

終診となりました。


彼が診察に来ないのであれば

上司も来院することは

ありません。



彼がどうなったのかは

分かりません。




正直に言うと、

「ここまであなたのために

尽力したのだから

少しくらい

私の話を聞いてよ。」

の気持ちがあります。



心の交流ができないと

悲しい。



どうしても

「これだけやってあげたのに!!」

が出てきてしまう。



ムシャクシャしながら

彼の心理検査を

見直しました。


結果を見ると、

相手の気持ちを考えることは

彼にとって困難でした。


相手ができないことを

要求していたことに

気づきました。






世の中には

いろんな人がいます。


「たとえ

相手から気持ちが返って来なくても

私はベストを尽くしたのだから

それでいいではないか。」


と思いたいです。



でも、

まだ思えそうにないです。

やるせなさが尾を引きます。


苦い気持ちとともに

今日も外来をしています。




精神科医 諸藤(モロフジ)えみりの心のレッスン

精神科医のわたしが日々の思ったこと、感じたことを書いています。

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