私はあなたのお母さんにはなれない



こんにちは、

精神科医の諸藤えみりです。



今日は私が外来をしていて

思ったことです。



私は人の悲しみに寄り添いたい。

けれども

私の心がすり減ってしまう。

そんな話です。





私の外来に

成人した方が来られています。

(特定されないよう配慮しています。)



もう2,3年の付き合いです。

詳細は伏せますが

この方は孤立しており、

私の外来だけが

唯一の社会との接点です。



私はお話を親身になって聞き、

社会の資源を使えるよう

サービスを手配しました。



この方は

人付き合いが苦手です。

しかし、

サービスを受け入れ

少しずつですが

できることが増えました。



精神科を知らない方から見れば

「そんなこと?」

と思うような内容です。


それでも私は

この方の頑張りを評価していました。






先日、この方に怒鳴られました。

外来に響くぐらい大声で。

私の何気ない一言が引き金です。



いつも通りの会話をしていたので

突然の怒声に驚きました。


あまりにも理不尽です。

この方が怖くなりました。



私は心のガードを下げて

何の防御もしていませんでした。


だからこそダメージは大きく

恐怖が体に残りました。



以前のように診察できない。

また怒鳴られたらどうしようと思う。


「主治医をやめたい」

とまで思いました。

拒否反応が出るのです。



長い時間をかけて

信頼関係を築いていたのに

一瞬で壊れてしまった。

悲しい。




仕事だから

我慢しなければいけない、

感情を殺して

診察しなければいけない。


医師は患者を選べないのかなとも

悩みました。



怯えながらまた

この方を診察しました。






診察中、

怒鳴ったことに対して

この方から謝罪されました。



理由は

「自分を

ぞんざいに扱われた気がした。

だったら

何を言っていいと思った。」

と言われます。



振り返れば

怒鳴られたときの診察は

いつもより時間が短かったです。



今年度から私は

担当患者さんの数が増え、

1 人1人にかける時間が

短くなりました。


それでも5分診療のような

短い時間ではありません。



この方は時間が短くなったことで

ぞんざいに扱われたと

思ったのかもしれません。




私も

「診察時間が短くなります。」

と事前に言えば

良かったのかもしれません。


でも

「だからと言って

どうしてそうなるの?」

と思ってしまいます。



大声ではなく

冷静に気持ちを伝えてほしい。





この方は寂しいのだと思います。

家族とも不仲で

私以外に話し相手がいません。



自分を大切にしてくれる

唯一の相手から

ぞんざいに扱わる。

耐えられなかったのでしょう。



親と良好な関係を結べず

大変な経験をされたこと、

愛に飢えていることは

分かります。



でも

自分の思い通りにならないから、

愛が欲しいから

大声を出すのは

子どものやり方です。




心の成長が止まっているのです。

本来であれば

自分の思い通りにならないときに

どうするかを

親が教えなくてはいけませんでした。



その役割を親ができなかった。



じゃあ誰がするのか。

私はできない。

自分をすり減らしてまで

できない。


私はあなたの

お母さんにはなれない。






今も怖い気持ちのまま

診察を続けています。



私以外にも

この方をサポートする

スタッフさんを増やしました。



本当は1対1で関係性を築いてから

多数のスタッフに

繋いだ方がいいのかもしれないけれど

そうも言ってられません。



患者さんに寄り添いたいけれど

私にも限界があります。




これからは

自分の限界を見ながら

診察をすることにしました。



ここまではできるけれど

これ以上はできないと

相手に明確にする。

境界線を引く。






怒鳴られようが何だろうが

ガッチリ患者さんの気持ちを

受け止め、

関係性を深められる

医師やスタッフさんもいます。


すごいなと思う。



本当は私も

感情をぶつけられても

相手の悲しみに寄り添いたい。

でもできない。



1番悲しいのは

怒鳴られたことではなくて、

目の前の方を

受け止められない自分の小ささを

感じたことだった。









精神科医 諸藤(モロフジ)えみりの心のレッスン

精神科医のわたしが日々の思ったこと、感じたことを書いています。

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